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理論篇2
1リハビリテーションにおける心の役割
2心と身体

リサーチレター(ザ・ランセット誌99年6月12日353巻)

「鏡を使った脳卒中後のリハビリテーション」

エリック・レヴィン・アルツシューラー・シドニー・B・ウイズダム、ランス・ストーン、
クリス・フォスター・ダグラス・ギャラスコ,D.マーク.スレベリン、V.S.ラマチャンドラン

  工業化社会において高齢化が進むにつれて、地球上における脳卒中の重荷は驚くほどのものになってきている(毎年数百万人だ)。脳卒中の最も一般的でかつ身体能力を損なう後遺症の一つが、片麻痺である。切断手術後、動かない幻肢を持つ患者のうちには、垂直傍矢状vertical parasagittalに立てた鏡の中で切断されていないほうの手や腕を動かすのを自ら見るとき、筋肉の運動感覚が喚起される人たちがいる.そこで、あるひとつの効果的で端緒的な結果に勇気付けられることがあって、われわれは脳卒中で片麻痺を生じた人たちにミラー・セラピーをいま少し大規模に行なってみた。

 すべての被験者は、CTか磁気共鳴画像によって、発症後少なくとも6ヶ月経ったとされた人たちであった‥平均が経過4.8年、標準偏差8.2年、範囲は6ヶ月から26年3ヶ月である‥これは、自然的治癒の影響を排除するためだった。書面を作って、実験を受けることを承諾した患者たちは、それぞれ任意に最初の4週間を鏡を使うか透明なプラスチック板を使うかを決め、その次の4週間は逆の療法を試した.

 私たちは、18×4インチ(45×60センチ)の鏡面加工したプラスチックと、同じサイズの透明プラスチック板を用いた。被験者たちは一日15分の療法を二回、一週間六日というペースで、実験を行なった。被験者は.麻痺した手をできる限り自分で動かしながら両手、両腕をシンメトリカルに動かすのだが、その間、鏡に映った健常な手を見つめるか、透明シートを通じて見える麻痺の像)を見る(注・・麻痺側の手は照明で照らして、明るくしている)。

  被験者たちの医療計画は、「自分で決めるbootstrapping」やり方が採用された。典型的なやり方は、近位部(心臓に近い部位)からだんだん遠位部(末端)へ、出来る動きから出来ない動きへと動かしていくものであった。被験者たちは、開始後0、2、4、6、そして8週間目に、ビデオで上肢の重要な動きのすべてを撮影された。被験者たちからは、自主的な意見が出された。また被験者がどちらの方法(鏡か板か)を先にやっているかとか被験者たちから出ている意見は知らせないまま、われわれのチームから二人の熟練神経学者が出て成果の評価にあたった。被験者たちの基礎状態を基準にして、動作の能力を、動きの範囲、速度、正確さを測って−3から+3の幅(7段階)で評価したのだ。もちろん、変化なしなら0だ。

 被験者全員が、主観的にはプラスチック透明板より鏡を好み、またより効果があると感じたのである。一人の患者は、「私がやった他のすべてのセラピーは、私の筋肉を鍛えるものでした。でも、この鏡は唯一、私の脳と神経を訓練するのです」と言った。もう一人の被験者は、使用しているあいだは、本当は動かなくても、「私の麻痺した腕があたかも正常に動いているように見えるから鏡を使うことが好きだ」と言った。

 さらに別の被験者は、鏡を使って療法をすることを、「福音的であるblessing」とさえ表現したのである。評価者の二人は、半透明板を使って、麻痺手をコントロールするより、鏡を使ったほうが実質的により多くの改善があったことを認めるに至った。

 鏡は被験者たちに「妥当な」視覚刺激―――麻痺していない腕の動きが、あたかも麻痺手が正しく動いているかに見える───を与えるし、おそらく、しばしば減少したかあるいは欠如してしまった固有感覚的proprioceptive(注・視覚によって補佐・強化される代替回路以前の身体にプリセットされた通常潜在意識レベルで感じる感覚的・・つまりコンピュータでいえば、default!)な神経情報入力に代替「substitute」が生まれるのだ。
 鏡の使用は多分また、前運動皮質を再生して、運動のリハビリを助けるのだろう。前運動皮質には、可能性としての脳卒中後の運動リハビリに鏡の中で見るイメージの像がリンクしていることを示唆する多数の特徴がある。――皮質脊髄路の後遺痕跡が減るという小さからぬ貢献がある――運動皮質によるだけよりも運動の左右相称的な(両側的な)コントロールが出来る――運動前野領域と視覚による入力のあいだに緊密な関係がある、などの特徴である。神経学的かつ心理学的レベルの多くの側面において、ミラー・セラピーは、障害肢の学習された麻痺(learned disuseを意訳・・これで正しいだろう・・栗本)を元に戻すのに役立つ可能性がある

少なくとも、脳卒中後の片麻痺者のうちのある者たちには恩恵があるという事実から、ミラー・セラピーをもっと大規模に試みるようわれわれは勇気づけられているのだ。…片麻痺者は必ずしもつねに「患者」ではないが、原文にpatientsの表現が用いられているので患者とする。02/18に、福井医科大学助教授平山幹生氏のご指摘により、下線部の脱落を含め、4箇所の邦訳訂正を行った。記して、感謝する。

(カリフォルニア大学サンディゴ校脳認知研究所(所長V.S.ラマチャンドラン))

療法実験の報告(患者ナンバー、年令、性別、、片麻痺側、重度、発病後経過年数、リハ対象、最初の4週間の療法の型(鏡Mか板Cか)と評価者(G1とG2)の六段階法の評価、をならべてある。Gはgrader, Cはcontrol、つまり透明な板の向こうからくる像によって動きをコントロールするとの意味。ここで、年令と発病後の期間の長さ、重症度に注目せよ。もはや麻痺が固まってしまったとあきらめた人たちにとっての福音となるかも知れない。
患者NO 年齢 性別 箇所 重症度 発症後期間 治療箇所 最初の四週の効果 次の四週の効果
用具 症状改善度 用具 症状改善度
59歳 軽度 2.1年 手、手首、肘 C G1-+1G2-+o.5 M G1-+1,G2-+1
2 55歳 重度 1年 肩、肘 C G1-0、G2-0 M G1-+1、G2-+o.5
3 53歳 超重症 1.5年 M G1-+o.5,G2-0 C G1、G2ともに0
4 55歳 超重症 6ヶ月 M G1-+1、G2-0 C G1、G2ともに0
5 54歳 重度 26年3ヶ月
(妊娠中切断手術
)
肩、肘 C G1、G2ともに0 M G1-+1、G2-0
6 60歳 重症 4年9ヶ月 肩、肘 C G1-G2ともに0 M G1-+1、G2-0
7 53歳 やや重症 2年3ヶ月 肩、肘 M G1-+o.5,G2-0 C G1、G2ともに0
8 73歳 重症 4年半 肩、肘 C G1、G2ともに0 M G1-+1、G2-+o.5
9 62歳   軽症 8ヶ月 肩、肘、手首 M G1-+1、G2-+o.5 C G1-+1、G2-+o.5

*用具の項目のMは鏡、Cは半透明板

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